2015年3月23日月曜日

名を知るは愛のはじまり

 ますみさんが去年の春、花の名前を覚えて喜ぶわたしにそんなことを言ってくれたのだった。

去年は2月、3月と沖縄にいたから梅の花を見たのは2年ぶり。
ひさびさに見てああすごく好きだなあと思いました。つぼみもまあるくて愛らしい。
つげ義春のような寒くて暗い冬をすぎて、カマキリのぐらぐらを経て出会う春の色はどれもこれも感動的。


寮の前で香る沈丁花のにおいに心躍り、



寮の近くの道路脇でいつも花を植えているおばちゃんの庭には野の花が満開。







マンサクに始まり、蠟梅、さんしゅうゆ、菜の花、トサミズキと黄色の花がぴかぴか。

マンサクは春のはじめに咲くからマンサクなのだよと教えてもらう。東北でいう「まんず」「咲く」からマンサク。
トサミズキの名前も教えてもらう。きれいだきれいだとわたしがはしゃいでいたら、集落に花木をたくさん植えていたおじさんが「持ってきな」と持たせてくれた。

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先々週は、福岡県の久留米市へ行った。
園芸が盛んなところで、フィリピンの実習生を何人もつかって小松菜や水菜や春菊などの葉物をたくさんたくさんつくる。これがいけいけどんどんか、というほど、若い人たちに活気がある。TPPも葉物には直接影響ないだろうとあまり憂うこともなく、アルファロメオとか家先にあったりする。
前のわたしだったら相当ひいていたんじゃないかと思うけれど、そうやってそこの地で元気に暮らしている人がいることはいいことじゃないの、それはそれで、そういう農家だって必要なんだと思ったような。茨城の鉾田を回っていたことを思い出して、あそこでつらかったこともなんだかこうしてつながっているんだなあとか。

久留米で出会ったバラ農家のお父さん、「葉物屋さんはいま需要あるし元気あるけど、花農家は今の時代元気ないよ」と言っていた。確かに、バブルの時代と比べると、花を飾ったり愛でたりすることにお金を費やす人ってきっと減っているのだろうな。わたしもバラを買って飾ったりする習慣はないけれど、その前の週に会ったバラ農家のお家で見させてもらったバラがびっくりするくらいきれいで、いい匂い。お願いして1本100円でいただいたのだ。お腹はいっぱいにはならないけれど、美しいものはこころを満たしてくれると思う。



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翌週は、大分県日田市へ行く。
わたしは旧天瀬町を回った。
はじめて行ったその日から、いっぺんに村のことも、村の人も好きになる。


古園という集落に行くと、毎年恒例のおひなめぐりというものをやっていて、家々の庭、路傍や玄関などにぽつんぽつんと、あるいは家のなかにずらりとならんでいるおひなさまたちに出会った。






なかでも目をひいたのがおきあげ雛というお雛様たち。裏は新聞紙で、竹の棒が台に刺してある。82歳になるおばあちゃんの初節句で揃えたものらしく、70年間箪笥にしまってあったのに虫食い一つもなくて素晴らしい出来。はじめてみたけれど、これには感動してしまった。表情豊かで心躍ってしまう。


御殿雛はその娘さんの初節句で揃えたもの。年代で雛様の様式が変わっていて面白い。

いままでおひなさまってそんなにありがたいものと思ったりとくべつ好きだなと思ったことなかったけれど、80過ぎるおばあちゃんも、50代くらいのその娘さんも、ああ、ちいさいころがあって、その誕生をさらに年上のお父さんやお母さんに祝われて、愛されて、そのことがうれしくて、80過ぎのばあちゃんのほほえみの向こうには少女の時代の記憶があって、おひなさまはその象徴であるような気がして、一体一体のおひなさまを見るにつけそれを熱っぽく見つめた小さなまなざしのことを感じてなんだかとてもとてもうれしい。

 一軒一軒飾り方も飾る場所も違って歩いて巡るの楽しかった。
みんなの家にあるもの持ち出してお金をかけない地域おこしを10年以上も続けている古園集落。
土日は公民館でばあちゃんの漬物カフェも開かれる。
「田舎のばあちゃんたちは漬けもの漬けても家では「もういらんばい」とか言われて喜んでもらえないけれど、よそから来た人はものすごく喜んでくれたり作り方を聞いたりする。おばあちゃんたちも褒められたり必要とされることがものすごく大事なのよ」と発起人のお母さんが言っていたのを聞く。

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愛子さんは雨の日にお邪魔したお家のおばあちゃんで、家に飾ってあった水仙がきれいですねと褒めると、「水仙が雨に叩かれてかわいそうだから摘んできたの」とかえってくる。少女のようなおばあちゃん。一緒に住んでいる息子たちのことを「せいちゃん、てっちゃん」と呼んでいる。わたしは帰ってくる息子さんを待つ間、愛子さんといっしょにミルク泡立ててコーヒーにのっけてみたり、ケーキをたべたり、むかし話を聞かせてもらった。

「わたし生まれたまんまでお嫁に来たの」
19歳で世間知らぬままとなりの町からお嫁に来た話や、優しいお舅さんにおそろいのワンピースと靴を買ってもらってうれしかった話を昨日のことのように、はじめて会った私に語りだすのだ。
実家のある日田市で毎年4月末にある観光祭という水のお祭りの時期になると、「よこおてきなさい(休んできなさい)」、「母ちゃん乳を飲んできなさい」とお舅さんに言ってもらい、田植え休みをもらって里に毎年帰してもらった。それが楽しみで、知らない土地でも頑張れたのよと。その時お祭りに持って行ったのがチマキとサンキラ団子。サンキラは柏の葉の代わりに使う柏餅のようなもの。「その祭りではね、花火が上がって、踊り子が踊って、屋形船がでるの」少女のようなお母ちゃんが目を細めてうれしそうに話す。

名前のあるものにはみな、ものがたりがあって、それを知ることはとてもすてきなことで、うれしくなる。

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週末は久々に実家に帰る。福岡と沖縄で買ってきた器に料理を盛る。日田で買ったオチアユのうるか(塩辛)を兄のバケットにつけて食べる。
畑で摘んできたふきのとうとセリをてんぷらにしてもらって食べる。
春の味はすこし苦くて、愛おしい。